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情報そのものには価値がない時代―
情報をどう調べ、どう解釈するかに価値がある

#01 中村 篤史

北里大学卒業
2006年 東京大学附属動物医療センター 内科研修医
2008年 酪農学園大学付属動物病院 内科研修医
2009年 高橋犬猫病院 勤務医(埼玉県岩槻区)
※肩書などは、インタビュー実施当時(2017年7月)のものです。

わからないことがあったら、まず聞く

―中村先生は、若手の獣医師がもっと獣医療について学びたいと思ったとき、
どのような姿勢であるべきだとお考えでしょうか?

中村先生:

私が自分の病院のスタッフを指導するときには、どうやって学ぶか、つまりどうやって情報を手に入れるかが大切だと伝えています。
現代では勉強しようと思えば本や雑誌もたくさんあるし、ネットで調べれば知りたいことは何でも知ることができ、『情報』そのものに価値のない時代です。重要なのは状況に応じてどう調べ、どのように解釈するか、という点です。

私が若手の先生におすすめしたいのは、「わからないことがあったときは、まず信頼できる人に聞く」という方法です。文献を読むより理解している人に聞く方が、ずっと効率がよいですし、教科書に書いていないことや、そこから派生したことも教えてもらうことができます。

はじめは、わからないことをあれこれ聞くことに気後れするかもしれません(ときには、煙たがられるかもしれません)。でも、自分がわからないことは、案外、ほかの人もわかっていないことが多いですよ。だから、人に聞くことは自分のためだけでなく、周りの人のためにもなります。

私の大学時代の恩師は非常に聡明な方でしたが、常に「わからないことは何でも聞きなさい。僕も君に聞くから」という風におっしゃられていました。わからないことは先生も学生に聞く、それは少しも恥ずかしいことではないと、そのときに教えられました。

全体流れ押さえた後、雑誌・書籍確認をする

―それでは、書籍や雑誌で学ぶのは非効率で時代遅れなのでしょうか?

中村先生:

いいえ、まったくそういうわけではありません。全体の流れを押さえるとか、派生した情報を取るには人に聞く方がよい。でも、そこで疑問が生まれたら、必ず雑誌や書籍に立ち戻ってほしいです。 コミュニケーションですから、どんなに優秀な先生の答えでも、自分が必要とする100%ではありません。だから、正確なことを知りたいとき、細かい部分を詰めたいときは、ぜひ雑誌・書籍を参考にしてください。書籍は生き物ではないので、臨床の現場では物足りないことも多く、最初から書籍だけで学ぶのは不十分だと思います。人に聞くことでおおまかな流れをつかみ、さらなる疑問が出てきた段階で雑誌・書籍を読む、という使い方がベストなのではないでしょうか。

雑誌のすごいところ・成書のすごいところ

―雑誌・書籍にもいろいろな種類があります。とっつきやすい雑誌もあれば、掘り下げられた専門書もあり、細かいところまで網羅された、いわゆる成書もありますよね。中村先生はどういう本を使うとよいと思われますか?

中村先生:

どれを選択するかは、どういう状況でどの深さまで知りたいのか、早さ、正確さなどの条件のうち、どれを優先させたいかによって変わってきます。

忙しい一次診療の場であれば、まずスピードが求められます。この症例にどう対応するか、どういう順番でどういう処置をすればよいのかをいち早く知りたいときに、分厚い成書を開いて調べるのは容易ではありません。そういうとき、雑誌は非常に便利です。例えば、胃捻転ならこういう症状でこういう対処法があり、こういうケースもあるから気をつけて、といった流れがわかりやすく書いてあるので、端的に全体のイメージがつかめるし、写真も多いので理解しやすい。また、臨床で遭遇しやすい症例や成書に載っていない最新の事例を学びたいときには、こうした雑誌を積極的に活用しますね。

私もそうだったのですが、臨床現場にいる獣医師は日々の診療をまわしていくだけで精一杯で、なかなか情報のインプットができないんですよ。たまの休みの日だって疲れきっているから、細かい文字でびっしり書いてある成書を開く気力はないのが現実。だから、欲しい情報がコンパクトにまとめてある雑誌や専門書は本当に貴重です。

一方で、正確な情報をもとに、まとめたり、他人に伝えたりする場合は、成書でしっかり学ぶことも大切です。成書のすごいところは、論文を読まなくても大事なことが集約されている点です。 私は今でも成書で勉強していますが、研修医や動物看護師向けの雑誌や専門書は読みやすく、情報が吸収しやすいので、いざというときに非常に役に立ちます。

―先生がご推薦する図書に、SMALL ANIMAL CRITICAL MEDECINEがあります。推薦する理由、そして本書をどのように使って勉強されてきたのでしょうか?

中村先生:

獣医学の救急医療や集中治療についての成書であり、医学書や雑誌などで疑問に思う内容があれば、ここに立ち戻るようにしています。
洋書なので読むのに少しエネルギーがいりますが、獣医学領域における「答え」が描いてある一冊です。私は、読み込めるように単行本と移動時にも読めるように電子版、その両方をもっています。救急をやる先生にはマストの一冊ですね。

―最後に、若手獣医師たちに、メッセージをお願いします。

中村先生:

よく「百聞は一見にしかず」と言いますが、まったくその通りです。救急についてどのように勉強すべきわからないという方がいたら、是非一度、私の病院に来て実際の診療を見学してみてください。もちろん、私以外にもウェルカムな獣医師の先生はたくさんいますよ。そこで診療のイメージをつかみ、アプローチの仕方などを参考にしてください。興味を抱いた点についてはもう一歩踏み込んで、雑誌・書籍をあたってみるとよいでしょう。いつでもお待ちしております。

“中村篤史”を創る、書籍とは……

「明日の獣医療を創る」インタビューシリーズにて、中村篤史先生よりお勧めいただいた雑誌・書籍をご紹介します。

犬と猫の治療ガイド2015 私はこうしている

編集:辻本元、小山秀一、大草潔、兼島孝
A4判/上製本/1160頁

中村先生のお勧めコメント

診断はついたけど、その病気の治療法や周辺情報がわからない・・・
そんなときに開く本の一つです。専門の先生がその分野について詳しくまとめられており、治療法も表にまとまっており非常に使いやすいです。
治療ガイドができる前のSA Medicine 64号 救急医療の特集は、ボロボロになるまで読みました。

CLINIC NOTE No.134
特集: 敗血症の診断と治療(前編)

中村先生のお勧めコメント

わかったようで臨床的に重要なところが理解しにくい敗血症について、専門性の高い知識人がまとめられているところが素晴らしいです。

中村先生のお勧めコメント

図やイラストが多く、その分野や病気について学びはじめる初学者や、苦手な分野だけどポイントを押さえておきたい先生にとっては、使いやすい雑誌だと思います。物足りなさを感じることができれば、基本をおさえることができたということでしょう。

SURGEON No.123
特集:肛門・肛門周囲の外科

只今SURGEONでは中村先生ご執筆の「実践!救命救急医療」を連載中!

実症例ベースの臨場感を体感できる内容です。 診療の流れの中でのチェック項目・対処方法の分かりやすい解説が好評です!