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“自分が間違えることを想定して”動くようにすること
自分の行動を常に疑い、いろいろな可能性を考え、
シミュレーションすることが大切

#05金本 英之

2006年 麻布大学獣医学部獣医学科卒業
2010年 東京大学大学院 農学生命科学研究科
博士課程(獣医学専攻)修了
2011年 ユトレヒト大学 伴侶動物臨床獣医学研究室
客員研究員
2016年 東京大学大学院 農学生命科学研究科
獣医内科学研究室 特任助教
2017年 DVMsどうぶつ医療センター横浜
二次診療センター 内科医長

「人」に恵まれて、研究者の道を歩んだ

金本先生はなぜ肝臓のスペシャリストを目指されたのでしょうか。

金本先生:

私は大学では病理学研究室に所属していたのですが、卒業研究のテーマが肝臓だったんです。臨床の研究をすると、みな新しい治療法を作りたいと思うものですが、病気の根本のところがわからないと治療にはつながらないので、それはなかなか難しいです。肝臓という臓器は特にわからないことだらけで、飼い主さんからよく「どうしてこんな病気になったのですか」と聞かれますが、明確な答えがある場合はほとんどありません。それが自分でも納得できなくて、新しい治療法の確立は難しくても、臨床に即した検査や診断に役立つ研究ならできると思い、東大の大学院に進むことにしました。

その東大で大野耕一先生から「せっかく大学で肝臓を研究してきたのなら、専門的にやってみたらどうだ」と言われたのも大きかったですね。大野先生は当時、超音波検査に使う新しい造影剤が出たことを知り、私に「本当に役に立つかどうか、調べてみなさい」と言ってくださったんですよ。臨床的な実験ということもあり、興味を持ってどんどん研究が進められ、きちんとしたデータを取ることができました。そのおかげでいろいろな学会に出させていただいたり、論文を書いたりすることができ、この分野をもう少し研究したいという思いが強まりました。そんな時、運良く肝臓の研究では世界でもトップレベルのオランダ・ユトレヒト大学の客員研究員となることができました。

私は、「人」に恵まれていたのだと思います。ユトレヒト大の先生や東大の大野先生はもちろん、私が大学院にいた頃の東大には中村篤史や福島建次郎、浅川翠といった、現在第一線で活躍している獣医師がたくさんいて、彼らに何度も助けられ、多大な刺激を受けました。

お話を伺っていると、早い段階から目標を定めてキャリアを積んでこられたように思います

金本先生:

大学院1年の頃の私を知っている人は、「あのヤル気の無い金本がね…」と思っているかもしれませんね(笑)
大学ではいつも後ろの席にいて、授業を聞いているんだか聞いていないんだか、そんなヤル気のない態度でした。大学院に進んでも、大学院生の本分は研究をすることですが、何を研究したらよいのか全然分からなく、「何かを研究する」との意識すら持ってなかった時期もあります。
ヤル気が出なければドロップアウトした結末もあったとは思います。ただ研修医として必死に働いていた同輩をみて、励まされたのだと思います。“お互いに刺激し合って”といった格好良いものではなく、一方的に助けられたといった感覚です(笑)

DVMsでやりたいこと、DVMsだからこそできること

現在所属しているDVMsでやりたいこと、目標にしていることはありますか。

金本先生:

短期的な目標は、DVMsを二次診療センターとしてさらに機能させるため、チーム獣医療を確立させることです。そして長期的には、症例を集めてしっかりしたエビデンスを作ることです。

以前所属していた東大の動物医療センターは、チーム獣医療が確立されていると東大を出てみて感じました。そこでの経験を活かし、それぞれの分野の専門家・スタッフが動物の為に集結し、優先順位を定めながら治療や看護を行って行きたいと考えています。そしてこのチーム獣医療の輪には、紹介元の一次診療病院も加わっているという形を模索しています。

長期目標については、現在、獣医師が日常的に使っている薬剤や治療法の半分以上は、きちんとしたエビデンスに基づいていると言い難い状況です。だから、きちんとデータを取って、効果のある治療法とない治療法をはっきりさせたいと考えています。

とはいえ、個々の症例で十分なデータを取り、それを蓄積するには時間がかかります。今はまだその基礎固めの段階ですが、多数の症例を紹介いただけるDVMsの特性を活かし大学のラボと連携した研究ができないか、こちらもじっくり模索しています。

大学病院での診療、そしてDVMsでの診療、同じ二次診療施設で診療の違いを感じることはありますか?

金本先生:

そ来院する症例の集団が違うことから、特に診断をするタイミングに大きな違いがあると感じています。傾向として、大学病院に来る動物は病気が悪化していることが多いので、診断自体はしやすい。一方、DVMsへの来院は大学病院の来院よりも早い段階であることが多いので、しかるべきタイミングで、かつ詳しい適切な検査をしないと正しい診断にたどり着けないと感じています。「元気だけど検査の数値がよくない」といった動物もよく来るDVMsでは、ちょっとした徴候をも見逃さず、先を見通す力がさらに求められていると思っています。



自分が間違えることを想定して、動く

最後に、若手の先生方にアドバイスはありますか?

金本先生:

誰の言うことも鵜呑みにするな、と伝えたいですね。これは臨床獣医師も含め、科学者には絶対に必要な視点です。論文や書籍やセミナーの講師が言うことは、あくまで彼らの意見であり、真理ではありません。論文で発表されたことが10年後に覆ることはよくあります。

もちろん、論文や成書が役に立たないと言いたいわけではありません。そうしたたくさんの意見の中から何を選択すべきかを、常に自分の頭で考える姿勢をもってほしいということです。どの意見を信じるかを決めるひとつの手がかりは、その意見に説得力があるかどうかです。例えばデータの取り方が適切で、自分で取ったデータや実際に診た症例を紹介している人の意見には説得力があります。

それから、“自分が間違えることを想定して”動くようにすること。用心深くあることは失敗に対する最大の保険となります。 人間は“最初に判断したことに捕らわれる”のだと思います。そして獣医師は経験を積むほど自信を持つものだと思います。ということは、経験を積めば積むほど間違えやすくなる側面があることを認めなくてはならない。自分の行動を常に疑い、いろいろな可能性を考え、シミュレーションすることが大切だと思います。

“金本英之”を創る、書籍とは……

「明日の獣医療を創る」インタビューシリーズにて、金本英之先生よりお勧めいただいた書籍をご紹介します。

スモールアニマル・インターナルメディスン【第4版】
-日本語版-上下巻セット

総監修:Richard W. Nelson,C. Guillermo Couto
監訳:長谷川篤彦(東京大学名誉教授)
辻本 元(東京大学大学院 農学生命科学研究科 教授)
【上巻】A4変形判 上製本 第1章~第48章 824頁
【下巻】A4変形判 上製本 第49章~第104章 856頁

金本英之先生のお勧めコメント

教科書ではありますがエビデンスに基づいた記述がされており、学術的にも正確性が高いものであると思います。難点としてはアメリカで作られたもので、国内の母集団では合わない記述があったり、国内で特に多い疾患等では記述されていないものもありますが、他の書籍・雑誌と組み合わせて参考にすることでカバー出来ると思います。内科を勉強したければまず用意すべき書籍であると自信をもって言えます。

J-VET 368号(2017/11月号)
猫の変形性関節症

小動物臨床総合誌 月刊(毎月10 日発行)A4判96頁

金本英之先生のお勧めコメント

Interzooさんの定期刊行されている雑誌のなかでは、やや“お固い”印象ですが、逆に言えば正確な記述を心がけているということの裏返しでもあり、そう言う部分が気に入って良く勉強させてもらっています。引用文献も豊富で、より深く勉強したいときにも手助けになります。

112号(2017/12月号)
一目でわかる症候シリーズVol.8 下痢①

小動物内科専門誌 隔月刊(偶数月発行) A4判 96頁

金本英之先生のお勧めコメント

イラストが多く、見やすい構成で、私が専門外の部分についてすぐに情報を手に入れたいときにこっそり読むことが多い雑誌です。各分野のトップランナーの先生方が書いていて、学術的な正確性よりも、とにかく各先生方の考え方を分かりやすく知りたいというときに、いつもお世話になっています。

CLINIC NOTE BOOKS
ベーシック診療 犬と猫の肝・胆・膵

編集:大野耕一
著者:大野耕一、福島建次郎、金本英之、西村亮平
B5判 並製本 約240頁

金本英之先生のお勧めコメント

症例が数多く盛り込んであり、症例ごとにポイントを絞って、現場での実際の思考過程を意識して執筆しました。毎回、最新の症例を生のままお伝え出来るということで原稿を書くのを楽しみにしていましたし、共著者の先生方のパートを読んでも勉強させられることばかりでした。今見ると、最新の知見を踏まえて読み直してみると違った見方もできるな、という症例もありますが、その辺りも含めて読んでいただけたらと思います。

CLINIC NOTE BOOKS
犬の腹部超音波診断アトラス

監修:坂井学
著:鯉江洋、坂井学、中島亘、三品美夏
A4判 並製本 オールカラー 216頁

金本英之先生のお勧めコメント

腹部超音波検査の入門書として最適な一冊であると思います。
プローブの当て方と実際に描出される断面が分かりやすくビジュアルで示してあり、解剖学が苦手な私もお世話になりました。若い研修医の先生にもよくお勧めしていた一冊です。