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「自分が何をやりたいか、何になりたいか」
を明確にし、決して妥協せずに
すべてをやりきることが必要

#08 三輪 恭嗣

経歴
2000年 宮崎大学農学部獣医学科卒業、東京大学附属動物医療センター外科研究生
2001年 東京大学附属動物医療センター外科研究員
2002年 東京大学附属動物医療センター研究員(エキゾチック動物専門)、
ウィスコンシン大学エキゾチック動物診療科研修医
2004年 Avian & Exotic Animal Medical Center 学外研修
(Externship、Sponsored by Abaxis、USA)
2005年 東京大学附属動物医療センター非常勤獣医師
2006年 東京都豊島区にて、みわエキゾチック動物病院開院
※肩書などは、インタビュー実施当時のものです。

アメリカの強みと日本の強み

― 三輪先生がエキゾチックの道へと進まれた経緯を教えてください。

三輪先生:

元々は犬・猫の外科を専攻しており、しかも、一度は海外でも勉強がしたいという希望をもっていました。林 慶先生(現・コーネル大学)を頼って渡米し、いくつかアメリカの大学や臨床現場を見学したのですが、ウィスコンシン大学のエキゾチック動物診療科で出会ったのが Kurt Sladky 先生でした。私は幼いころから生物が好きで、犬・猫以外にもさまざまな生物を飼っていたのですが、Sladky先生と会話をしていく中で馬があい、エキゾチック診療に対してあらためて興味をもちはじめました。

帰国後、東京大学の小川博之先生から「今の日本にエキゾチックの専門科はないが、いずれ必要になる。君が東大でやってみないか?」との申し出をいただいたのですが、そのときはまだ犬の方が好きだったため、即決できませんでした。ですが、エキゾチック診療の経験が豊富な斉藤久美子先生や小家山 仁先生からも「大学、とくに東大でエキゾチック診療をやることに意味がある。ぜひやってほしい」との応援をいただいたこともあり、「とりあえず2年間やってみます!」となり、現在へと続いていきます。「恩師や先輩方の応援や期待に応える」という信念が、今の私をつくったのかもしれません。

―三輪先生は海外の先生方とも頻繁に連絡を取りあっていらっしゃいますが、日本とアメリカの獣医療の違いはどこにあると感じていらっしゃいますか?

三輪先生:

日本のトップレベルにいる獣医師の知識や経験、技術は、獣医療の先進国といわれるアメリカにも決して引けを取らないと思います。でも、獣医療を学ぶ環境に差があるのではないかと感じています。
日本では犬も猫も飼ったことがないのに犬・猫の獣医師になる人がたくさんいます。それはアメリカも同様であり、エキゾチックについても「色々な動物を診ることができれば…」という“なんとなく”のモチベーションで、専門コースに進む獣医学生が大半です。ただしアメリカには、犬・猫に限らずさまざまな動物についても専門知識を得られる環境と教育システムがあります。アメリカの大学の授業ではエキゾチックの解剖もやりますし、エキゾチックの疾病が国家試験の問題に出たりもします。学ぶためのシステムがあれば、あとは臨床に必要なのは経験だけです。システムがある分、アメリカは専門性をもった人材の育成に長けていると感じています。

―三輪先生は海外の出版社からも執筆依頼が届きますが、エキゾチックの分野において、日本の強みはどういうところにあると思いますか?

三輪先生:

日本の病院の強みは、世界でもトップクラスの症例数をもっていることです。アメリカは国土が非常に広いですが、その反対に日本は狭い。しかも、エキゾチックの飼育者が東京に集まっているため、都内の動物病院はとくに症例を集めやすいと感じています。またアメリカの飼い主は、エキゾチックの診療にあまりお金をかけたがらず、コストがかかる診療より、安楽死を選ぶ傾向があります。日本の飼い主は、お金をかけてでも動物の命を長らえようとします。そのため、よりしっかりと症例に関する臨床情報の蓄積ができます。

エキゾチックの世界は狭いので、この分野の先生方はみな知りあいです。診療に困ると、ネットワークを通じてお互いに声をかけあいます。そんなとき、症例を多数もっている私は、海外の獣医師がもっていないエキゾチックの情報や画像を提供したりするのですが、それを海外の先生が憶えていてくれて、書籍出版の際に声をかけられるのだと思います。結局のところ、臨床で重要なのは“経験”です。エキゾチック診療のイメージにありがちな“広く浅く”ではなく、エキゾチックの皮膚だけを診る、眼だけを診るといった、“より深く”あることも、日本では可能です。そして、それを世界へと発信すれば、日本のレベルの高さを広められると考えています。

―お話を伺っていますと、日本の獣医療にも、まだまだ発展する余地がありそうですね。

三輪先生:

それどころか、そもそも犬・猫に限定せずとも、さまざまな動物に目を向ければ、獣医師の可能性は無限に広がっていると思っております。
例えば、0℃以下で冬眠しているのに血液が凍らない動物がいます。しかし、これに着目して研究をしているのは工学部の方であったり、ヒト医療の先生であったり、動物学者だったりします。そして、彼らの研究成果を集約し、NASAが宇宙事業へと応用したりします。
私の中では、動物の研究では獣医師が“トップ”であってほしいのですが、現状は違います…。獣医師の目はヒト医療の薬理や生理に向いており、後追いしがちです。ヒト医療と獣医療では予算にも大きな違いがあり、結果、後追いしてもそこまでの成果を残せないのではないでしょうか。
逆に、獣医師がいろいろな動物の解剖と生理に精通し、かつ医療行為によって病気の要因や原因を調べられる立場なのだから、これを突き詰めればさまざまな研究へとつながり、新しい発見ができ、そして獣医師ならではの知見を発信できます。もちろん、他業種とのコラボレーションにもつながってきます。そして、これは獣医師の社会的地位の向上につながるものと思っています。

今を生き抜こうとする獣医師とは

―これからの獣医療を担う若手の獣医師にアドバイスをお願いします。

三輪先生:

まずは「自分が何をやりたいか、何になりたいか」を明確にすべきだと思います。そうすれば、“今やらなければならないこと”“次に習得しなければならないこと”が自ずとみえてくるはずです。そして、それからは決して妥協せずに、すべてやりきることが必要です。他人より優れた技術や知識をもっている先生は、皆、こういった努力をしていると思います。
 飼い主の目的は「動物を治すこと」ですが、原因が分からないまま“とりあえず”の対症療法に甘えてはいけません。一症例一症例を大事にしながら、飼い主の同意を得ながら徹底的に調べたうえで鑑別し、治療していく…。これをひたすら続けていくことが、診療技術の向上へとつながります。今を生き抜こうとする獣医師、そして獣医師の社会的地位の向上を目指すために必要となる心構えではないでしょうか。

“三輪 恭嗣”を創る、書籍とは……

「明日の獣医療を創る」インタビューシリーズにて、三輪恭嗣先生よりお勧めいただいた書籍をご紹介します。

エキゾチック診療 33号(2017/12月号)
エキゾチック哺乳類の生殖器の摘出術

エキゾチック動物診療のための専門誌
季刊 A4判 112頁

三輪先生のお勧めコメント

毎号、エキゾチックに関する特集記事とウサギや鳥などのより一般的な動物に関する連載を臨床現場の第一線で日々活躍している先生方が執筆しています。写真やイラストを多用し、日々の診療にすぐに役立つ内容になっており、エキゾの診療をする獣医師は最低限目を通しておくべきものだと思います。

SURGEON 127号(2018/1月号)
内部雌性生殖器の外科

小動物外科専門誌
隔月刊(奇数月発刊) A4判 96頁

三輪先生のお勧めコメント

学生時代から愛読しており、毎号テーマごとに詳しく基礎から最新情報まで紹介されています。犬・猫とエキゾでは様々な面で違いがありますが、変わらない原則も多々あり、エキゾでは情報が不足している部分を補い、基礎的な情報収集や手術のイメージトレーニングなどにも利用できます。

CLINIC NOTE 146号(2017/9月号)
次診療の疼痛管理マニュアル:後編(症例紹介)

獣医学の『標準診療』を学ぶ総合情報誌
毎月1日発刊 A4判 96頁

三輪先生のお勧めコメント

新人の獣医師向けに比較的読みやすく幅広い分野を網羅しており、日々の診療の傍ら目を通すには最適だと思います。
エキゾの記事もありますし、エキゾ診療では犬・猫からの応用も多く、広く基礎的な知識をつけるには最適だと思います。

エキゾチック哺乳類の画像診断-X線の正常像と異常像-

編著:Vittorio Capello,Angela M. Lennox;with William R.Widmer
監訳:三輪恭嗣(みわエキゾチック動物病院)
A4判 並製本 オールカラー 504頁

三輪先生のお勧めコメント

様々な小型哺乳類の正常画像と異常な画像とともに肉眼写真も掲載されています。
撮影した画像との比較はもちろん、当院では各診察室に1冊ずつ置き、飼い主様への説明に日々使用しています。

エキゾチックアニマル臨床シリーズVol.9 眼科学

編者:Nicholas J. Millichamp
監訳:高橋和明(前日本獣医畜産大学獣医学部実験動物学教授)
B5判 上製本 216頁

三輪先生のお勧めコメント

翻訳シリーズですが、原著は現在も続いており、毎号、テーマごとにエキゾ医療について最も詳しい情報が満載されています。写真は少なく文字ばかりですが、エキゾを本気で診療したいと思っている方は必読です。