Open Nav

獣医療における
画像診断の優位性を高めたい

#12 戸島 篤史

経歴
2005年 北里大学獣医畜産学部獣医学科卒業
2006年 あい動物クリニック 勤務医
2008年 iVEAT総合診断センター レジデント
2011年 公益財団法人日本小動物医療センター 画像診断科 副科長
2017年 公益財団法人日本小動物医療センター 画像診断科 科長

日本人向けの教科書を作るのが目標

― 戸島先生が画像診断の道に進まれた経緯を教えてください。

戸島先生:

大学を出て、富山市の保健所に1年ほど勤務しましたが、やはり臨床がやりたいと思い、同じく市内の動物病院に勤めることにしました。その時、たまたま富山で行われていた宮林孝仁先生(獣医教育・先端技術研究所)の超音波実習を受講し、衝撃を受けたのが画像診断を志した始まりです。

当時はまだ1~2年の臨床経験しかなく、わからないことばかりの中、何がわからないのかをつきつめていくと結局は“画像診断がわからない”ということに、この講演を通して気付きました。画像診断がわかるようになれば、診断がスムーズになり、たくさんの動物を助けることができるようになるのではないかと思いました。

そして何よりもその実習の3時間が、私にとっては非常に面白かったんです。その場ですぐに宮林先生に「画像診断の勉強をさせてください」とお願いし、翌年、獣医教育・先端技術研究所に勤め始めました。そこで3年ほど、画像診断とティーチング法を学び、今の勤務先に勤めることになりました。

― 画像診断を“指導する側”になって、見えてきた課題等はありますか?

戸島先生:

もちろん私の教育力はまだまだ宮林先生の足元にも及ばないのですが、「わからないことがわかるようになった」と評価いただく充実感や、先生方と知識を共有できる喜びには計り知れないものを感じています。反面、画像診断の上達には「感覚」「慣れ」「経験」といった言葉が付きまといがちです。私はこれらの言葉が嫌いで…(笑)これらの言葉を言ってしまうと、そこで教育は終わってしまうんですよね。もう少しわかりやすくならないか?会得しやすくならないか?といつも意識し、“今出来るようになる”メソッドや方法論を臨床の視点から作り上げたいな、と思っています。

― 日本小動物医療センターのホームページにて、戸島先生は「日本人の獣医師として日本人向けの教科書を書きたい」と発言されています。 そこにも通じるお話しですね。

戸島先生:

そうですね。これらのメソッドや方法論を教科書というかたちにできれば、臨床の先生方が画像診断を会得するための一助になるのかもしれません。イメージとしては私が今セミナー等で講演しているような、疾患からではなく症状や画像所見から考える内容で構成した、臨床でよく診る疾患の画像診断方法を記載したいですね。大学で学んだ知識をフル活用できる、逆引き事典のようなものが理想です。

― 出版社として放っておけない言葉です(笑)詳しく教えてください。

戸島先生:

国内で臨床的に一番診る病気、例えば吐いている犬であれば急性胃腸炎だと思いますが、そもそもその急性胃腸炎を診断する方法が書いている本がないんです。よく診る疾患と稀な疾患を並列に書いているのが教科書の常で、臨床の観点からは本当に必要な情報は書いていなかったり、少なかったり、強調されていなかったりで、臨床をやっている人間からすると非常にわかりにくくて嫌だなと。また同じ疾患でも「フレンチ・ブルドッグだったらこうだよね」とか「猫ならこうだよね」といった犬種別,品種別の情報も網羅できると、臨床的には使いやすくなると思います。極論に響くかもしれませんが、100%ではなくとも、80%の診断確度を提供するものが、今臨床には求められていると思います。

― 今後、画像診断をどのように発展させていきたいと考えていますか?

戸島先生:

例えば画像診断でいくら肺がんだと思っても、病理検査をしてからでないと確定診断ができません。でも、実際にはなかなかできないですよ、組織生検なんて。検査のためだけに開胸・開腹するのは、飼い主さんも嫌なはずですし、動物にも負担がかかります。飼い主さんや動物のためにも、私は画像診断の優位性が少しでも高くなればと考えています。

幸い今は二次診療の現場にいるため、画像診断を行った症例の確定診断から治療までを見届けることで「診断の答合わせ」ができます。

さらには優秀な同僚たちからの意見や診療上の問題点の抽出も、以降の画像診断の参考にすることができます。加えて、数は力なりではないですが、診断書を書かないものも含めると、私は年間約5,000例の画像診断を行っています。これは私の何ものにも代えがたい財産です。

こうして集めた画像診断の知識やデータを、少しでも臨床に還元することができたら本望に思います。

常にベストを尽くすことで、周りが応援してくれる

― 戸島先生の教科書を弊社で出版できることを願いつつ、その教科書を手にされるかもしれない若手の先生方にメッセージをお願いします

戸島先生:

私の座右の銘は「すべては自分次第」です。
勉強するのもしないのも、自分次第。選択権はすべて自分にあります。このように考えると他人のせいにはできなくなります。他人のせいにして言い訳を作ると自分が100%の能力を発揮できなくなる、私はそれが嫌だと感じています。

仕事は好きになって楽しまないと継続できません。そして、楽しむためには手を抜かずに100%でやるしかない。趣味でもそうですが、100%でやる、やり過ぎるほどにやって初めて物事は面白くなります。それに常にベストを尽くそうとする人間を、周りは必ず応援してくれるものです。これは飼い主さんも含めてです。

今は2~3年で臨床を辞めてしまう先生が多いと感じています。ヒト医療は発達しすぎて個人の裁量範囲は狭くなっていますが、逆に獣医師はものすごく広い。その分責任もありますが、やりがいもあるクリエイティブな仕事です。それをわからないまま辞めてしまうのはもったいないですよ。どうか仕事を楽しんでください。

“戸島 篤史”を創る、書籍とは……

「明日の獣医療を創る」インタビューシリーズにて、戸島 篤史先生よりお勧めいただいた書籍をご紹介します。

SA Medicine 115号( 2018年6月号)
一目でわかる症候シリーズ Vol.21 下痢②

小動物内科専門誌 隔月刊(偶数月発刊)
A4判 96頁

戸島 篤史先生お勧めコメント

臨床1年目の頃、2カ月に1回届くのが楽しみで。臨床の基礎的な知識はここから得て今でもその知識を使っています。非常に読みやすくまとまっています。過去のテーマをまたアップデートして欲しいなぁ。

スモールアニマル・インターナルメディスン【第4版】
-日本語版-上下巻セット

総監修:Richard W. Nelson,C. Guillermo Couto
監訳:長谷川篤彦(東京大学名誉教授)
辻本 元(東京大学大学院 農学生命科学研究科 教授)
【上巻】A4変形判 上製本 第1章~第48章 824頁
【下巻】A4変形判 上製本 第49章~第104章 856頁

戸島 篤史先生お勧めコメント

これまた臨床1年目の時からずっと今でもお世話になっているバイブルです。とりあえずここに書いてある知識を入れておけばおおよそ対応可能です。索引も非常に充実していて検索しやすいのも使いやすい理由の一つです。

ForVET21シリーズ!
犬と猫のX線解剖アトラス─読影のための正常画像─

著者:Arlene Coulson with Noreen Lewis
監訳:神谷新司
A4判変形 上製本 596頁

戸島 篤史先生お勧めコメント

画像診断を専門に勉強し始めてから今でもお世話になっています。ちょっとわかりにくいX線の陰影はこの本と見比べて正常かどうか考えながら読影していました。使用回数の非常に多い本でしたが、最近はマスターしたのか使用回数が減ってきました。

ForVET21シリーズ!
鑑別診断のために小動物臨床指針

原著者:Mark S. Thompson
総監訳:長谷川 篤彦
監修:尾形庭子、西藤公司、長谷川大輔、藤井洋子
187mm×110mm 並製本 328頁

戸島 篤史先生お勧めコメント

難しい疾患を診断する時、診断に行き詰まった時はこの本を見ながら『これはない、これはない、これは可能性が高い、これは可能性低いがありそう・・・』という感じで鑑別診断に漏れが出ないように使っています。文字だけですが診断に使いやすい本です。

SA Medicine BOOKS 犬と猫の治療ガイド2015 私はこうしている

編集:辻本 元,小山秀一,大草 潔,兼島 孝
A4判 上製本 1160頁

戸島 篤史先生お勧めコメント

診断、治療情報がコンパクトにまとめられていて、超読みやすく使いやすいです!日本の先生方が書いているのもあり、身近に感じられる情報が載っています。(洋書はたまにあまりにかけ離れた情報がある…笑)時間のない臨床獣医師にとってありがたい一冊です。