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「1回の手技で完治を目指す」
「一発で治す」というのが外科の基本であり、
最大の魅力。

#15福井 翔

経歴
2006年 酪農学園大学獣医学部 卒業
2006年 酪農学園大学附属動物病院 研修医
2009年 日本小動物外科専門医レジデントプログラム開始(酪農大)
2012年 酪農学園大学獣医学研究科 入学
2016年 日本小動物外科専門医 取得
2017年 江別白樺通りアニマルクリニック 開業
2017年 酪農学園大学獣医学研究科 卒業

外科手技を習得するためのポイントとは

― 福井先生が外科を志すようになったきっかけを教えてください。

福井先生:

幼いころから「病気を治す職業に就きたい」という漠然とした気持ちを抱いており、医療系の仕事に興味をもっていました。高校生のころは医学部や薬学部にも魅力を感じていたのですが、自分が鳥や犬を飼っていたこともあって、最終的には獣医学部へと進むことに決めました。動物病院に行ったとき、獣医師が自分の飼っている動物を治してくれる姿が、とてもカッコよく思えたんですよね。

獣医療のなかで、「治る・治らない」が一番はっきりしているのが外科であり、だからこそ、外科を志しました。基本的には「1回の手技で完治を目指す」「一発で治す」というのが外科の基本だと思っていますし、そこが最大の魅力です。

― 外科領域は、長期にわたる技術の習得と多岐にわたる知識の習得が必要と推察します。ご自身の経験と照らし合わせて、技術や知識の習得におけるポイントを教えてください。

福井先生:

私自身がそうでしたが、きちんとしたステップを踏む必要があるかと思います。
まずは成書などの書籍で基本を学び、その知識を身に付けてから実際の手技を学んでみてください。成書には、先人たちによる多くの失敗の蓄積に基づいたベストな方法が書かれています。正当な理由もなくそこから外れた方法を取った場合、それは失敗しても仕方がない方法だろうし、この段階を飛ばしてしまうと“我流”になってしまいます。外科の世界では、我流のうちは腕が上達しないという印象があります。


また次のステップとして、再発した症例をみることや、手術の失敗例を学ぶことが必要になります。例えば大学や二次診療施設における研修医の段階では、外科専門の先生から「手術方法」や「外科の考え方」を教えてもらいますが、このときに再発した症例などもみて学ぶことも重要かと思っています。外科では成功ばかりということはあり得ませんし、逆に成功ばかりしていると上手くなりません。「これをやってはダメなんだ」ということも学んでおく必要があるということです。外科専門医のレジデント時代、私が執刀医を担当し、指導医に助手に入ってもらいアドバイスをいただきながら手術をしたのですが、「そのやり方はよくないな」という指摘をいただいたら、その場でディスカッションをしながら最善の方法をみつけていきました。これは、本当に勉強になると感じています。

そして、信頼を重ねて、徐々に難易度の高い手術を任されるようになってからは、多様なパターンを経験することで応用力をつけることも重要かと思います。同じ病気でもさまざまなアプローチ法があり、どの手法が最善なのか決めるのは、獣医師に求められえるスキルの一つですからね。

― ステップを踏み技術・知識を習得すれば、もう怖いものはないといった感じでしょうか?

福井先生:

福井先生:いえ、手術は毎回怖いものです。今でも難しいオペの前日は憂鬱になりますし、逃げ出したくなりますね(笑)。大きな手術の場合は、事前に何回もCT画像を見直し、何度も何度も手順をシミュレーションすることで、「絶対に大丈夫」と自分に言い聞かせています。だからこそ、手術が成功したときは本当に嬉しいですね。
本来、手術という治療法はハイリスク・ハイリターンな手段であり、そのリスクを最小限とすることは、外科の醍醐味であり外科医の使命とも考えています。

外科教育に携わりたい

― 日本の外科領域の知見や手技は、海外、特にアジアに向けて発信ができる状況という印象があります。
この点も含めて、福井先生は今後の外科領域の発展にどのように携わっていこうとお考えですか?

福井先生:

福井先生:日本人の手技の丁寧さや細やかさは世界に誇れることですし、海外に向けて情報発信ができる状況にあるとすれば、それは喜ばしいことだと思います。しかし、個人的に携わっていきたいと考えているのは、日本における教育制度です。



まずは、外科に興味をもつ先生が勉強できる環境をつくることに、注力していきたいと考えています。日本では、今でも「みて盗め」という教育方針の病院が多いかと思います。この方法では、技術の習得はなかなか難しいと思います。先ほどお話したとおり、成書を読むことも大切ですが、本だけの知識では無理な手術があることも事実です。文字に落とし込めない何かをどう伝えるのか、また「当時こうして教わったけど、教えられたときにはできなかったな」などの不疎通を回避する考え方・教え方など、それらを色々ひっくるめて「外科を学べる環境づくり」に注力していきたいと考えています。

私個人がもっともっと勉強しなくてはならないという前提がつきますが、外科専門医として知識をまんべんなく保ち、その知識をきちんと教えられる獣医師になりたいです。それが専門医制度の発展にもつながると考えています。

― 最後に、若手の獣医師の先生方にアドバイスをお願いいたします。

福井先生:

漠然と勉強しろといわれてもできるものではないので、まずは目標を立てることではないでしょうか。「レジデントを終わらせる」でも「専門医の資格を取る」でも構いません。目標ができると、勉強すべき範囲もはっきりしてきます。

それと、きちんと教えてくれる“よい指導医”をみつけることも重要です。そして、よい指導医と巡り合えたら、ある程度はその環境に留まってください。短い期間、たとえば3年ごとに別の病院に移ることを考えているようでは、外科医としての成長は厳しいと思います。なぜなら、実際に自分で手術をしないと外科医として成長しませんし、どの指導医も最初から手術をさせてくれるわけではないからです。指導医が「こいつはすごく頑張っているな。努力しているな」と認めてからでないと、執刀はさせてくれません。1カ所で長い期間の努力を重ねて、「自分はここまでできるようになりました」とアピールしてください。指導医の信頼を獲得できれば、難しい症例も任せてもらえるようになります。やはり、着実にステップを踏んでいくことが、外科医を目指す獣医師に必要なのだと思います。

“福井 翔”を創る、書籍とは……

「明日の獣医療を創る」インタビューシリーズにて、福井 翔先生よりお勧めいただいた書籍をご紹介します。

CLINIC NOTE No.160号 (2018年11月号)
「黄疸」がみられた場合の診断・治療術

獣医学の“標準診療”を学ぶ総合情報誌
月刊 A4判 120頁

福井 翔先生お勧めコメント

小動物臨床を基本的なことから学ぶことができます。
私も研修医になりたての頃にお世話になりました。

SURGEON 131号 (2018年9月号)
頸椎不安定症

小動物外科専門誌 隔月刊 A4判 96頁

福井 翔先生お勧めコメント

小動物外科の成書は膨大な知識が詰まっていますが、意外に写真が少なく理解しづらいことや、細かい部分が分からないことがあります。この雑誌は写真やイラストが多く、視覚的にも理解しやすく、かつ、成書には載っていない細かいコツも記載されており、今なおよく読みます。

イラストでみる犬と猫の骨・関節へのアプローチ【第4版】

著者:Donald L. Piermattei, DVM, PhD/Kenneth A. Johnson, MVSc, PhD, FACVSc
監訳:原 康(日本獣医畜産大学獣医外科学教室 助教授)
出版:インターズー
サイズ:416頁(モノクロ)上製本

福井 翔先生お勧めコメント

整形外科手術を行う際には必須だと思います。ほとんどすべてのアプローチ法が記載されており、それがイラストで視覚的に学ぶことができます。

ベテリナリー・アナトミー ―犬と猫の解剖カラーアトラス

スタンリ・H.ドーン (著)
ピーター・チャールズ・グッディ (著)
浅利 昌男 (監訳)

福井 翔先生お勧めコメント

全身の解剖が理解でき、巨大な体表腫瘍を切除する際にどこの筋肉まで切除しようかと検討するときにCT画像とともに必ず開いています。