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診療上で違和感がもてる、
多くの選択肢をもてる、ということは
動物のからだ全体を意識し続けないと得られない。

#17高木 哲

経歴
2000年 北海道大学獣医学部 卒業
2005年 北海道大学大学院獣医学研究科博士後期課程 修了 および学位取得
2004~2007年 北海道大学大学院獣医学研究科獣医外科学教室 助手
2007~2009年 北海道大学大学院獣医学研究科獣医外科学教室 助教
2009~2017年 北海道大学大学院獣医学研究科獣医外科学教室 准教授
2018年~ 現職

常にからだ全体を意識し続ける

― 高木先生はなぜ獣医師を志すようになったのですか?

高木先生:

私の場合、「家で動物を飼っていたから」というわけではなく、ただ生物学が好きだという理由からです。特に遺伝の基本法則を発見した植物学者・メンデルの物語をマンガで読んで「生物学って面白いな、遺伝の勉強をしたいな」と思ったわけです。
やがて、数ある生物系の分野のなかでも、獣医師はいちばん幅広いことができる職業だと気がつき、この仕事を志すようになりました。ですから、獣医学部に入った当初はウィルスを研究する研究者になりたいと思っていたのですが、なんとなく臨床を見に行ったら、その面白さにはまってしまいました。そして「臨床系のなかでも外科は花形でかっこいい」なんて感じて、外科を選んだわけです。

― 外科のなかでも腫瘍科に力を入れている印象があります。腫瘍科に感じている魅力はなんですか?

高木先生:

私の知のベースには「いろいろなことを知りたい」という欲求があります。さらに性格的にあきっぽいのか、「ココだけを極める」という感じで専門を絞るのはあまり好きではないですね。守備範囲が広いほうがよいというか…。例えば、腫瘍って体のいろいろなところにできるじゃないですか。だから、体のどこでも手術する。そして手術だけではなく、この腫瘍に放射線を使うとこうなるとか、化学療法をやれば小さくなって安全に摘出できるとか、免疫療法ならどうかとか、手術以外の選択肢についても幅広い知識をもつ必要がある、これが腫瘍科に感じている魅力となっています。



また腫瘍ができるような患者さんは高齢の場合が多いので、甲状腺機能亢進症とか代謝異常、関節疾患など、ほかの病気をもっている可能性がある。そういう可能性をくまなくチェックして、見落とさないように配慮しながら進めないと安全に手術を終えることができません。当然リスクは高いし、勉強しなければならないことが多くて大変ですが、それらすべてをうまくコントロールして患者さんを治すことができたときは、ものすごくうれしいし達成感を感じます。



― 常に動物のからだ全体を意識し続ける、ということは確かに大変なことと推測します。

高木先生:

何かがおかしい・いつもと違う、という印象に気づけるかどうかが重要なのだと思います。腫瘍でいえば、「普段はこんなところはチェックしない疾患だな」と思いつつも診てみたら病変があったとか。これが事前に気づくか・気づけないかで結果が大きく変わってきます。



また外科でいったら、あらゆることを想定しながら武器をもって挑みたい。この武器にあたるのが「この場合はこうする」という多くの選択肢です。手術の上手い先生、例えば同僚の渡邊俊文先生(麻布大学)の手術を見ていても、その時その時の選択肢のなかから最適な道を、Decision Making(デシジョン・メイキング)しながら進んでいることが手に取るようにわかります。その選択が素早いので、パッと見は一直線に進んでいるように見えますが(笑)。

診療上で違和感がもてる、多くの選択肢をもてる、ということは動物のからだ全体を意識し続けないと得られないと思います。



― では高木先生は具体的にどのようにその意識を保ちつづけているのですか?

高木先生:

うまくいかなかった例を考え続けて、突き詰めることですね。飼い主さんにとっては上手くいった・他獣医師からも「上手くいったね」といわれることでも、自分にとっては「上手くいかなかった」と思うことはたくさんあります。ぶっちゃけると、上手くいったことは忘れても上手くいかなかったことは忘れません。そして、突き詰めると結局は自分のせいになるので、この作業は非常につらいのですが、自身の成長に確実につながっていますし次世代に渡していく意義もあるなと思っています。

治療を補完する知識とは?

― 今後、腫瘍科はどういう方向に発展していくと思われますか?

高木先生:

より高度な治療へとシフトしていくのは間違いないでしょうね。放射線療法、化学療法に加えて免疫療法もベースに乗ってくるかもしれませんし、手術ももちろん高難度になる。高額な治療も増えていくでしょう。そうなったら、獣医師の側にもそれに見合う知識や技術、経験が求められていくと思います。腫瘍外科、腫瘍内科、放射線科、病理科、今まで以上に獣医師が勉強する幅が広がっていくと思います。

ただ、個人的な印象となりますが、大学卒業後、雑誌や書籍だけで勉強している獣医師が増えていると感じます。雑誌や書籍にプラスして、学会に来ていろいろな情報を得ることは取捨選択の幅が広がるはずですし、ディスカッションも活発に行われている学会であればフラットな場で見聞を広めることにもなります。
もちろん、専門分野の底上げについては、われわれ専門医がしていかないといけないので、とも感じています。大学人として卒後教育の場についても考えなくてはといけないな、とも感じています。

― 最後に、若手の先生方にメッセージをお願いいたします。

高木先生:

道は1日にしてならず。すぐに専門分野を決めようとしないで、まずは病気と動物のことを全的によく学んでほしいと思います。ひとつの病気に気を取られて、命にかかわるような別の病気に気づかないような獣医師になってはいけません。自分はこれ専門だからこっちは知りません、ではなく、木を見て森を知るように、動物全体を見(診)てほしいですね。

常識を疑うことも必要です。常に「ここに書いてあることは本当なのか」という気持ちをもち、最新の情報を仕入れるようにしましょう。世の中には間違った情報が溢れていますが、そういうものに対したとき、「あれ、変だぞ」と感じる感覚をもつことは、獣医師にとって非常に大切なことです。もちろん、簡単なことではないし、すぐには無理でしょう。まずは、「この病気」と決めたらそれに関する情報を読み漁り、目を肥えさせ、自分のなかで時間をかけてそうした感覚を養ってください。そうすると自分できちんと情報の取捨選択ができるようになります。

実は私もまだまだ勉強不足で、いまだに毎日「え?こんなことあるの?」の連続です。だから面白い。私は、この「面白い」が獣医師の仕事を続けていくための原動力だと思っています。みなさんもぜひ、「いつもと違う」を見つけたら、「面白い」と感じるようになってください。

“高木 哲”を創る、書籍とは……

「明日の獣医療を創る」インタビューシリーズにて、高木 哲先生よりお勧めいただいた書籍をご紹介します。

高木 哲先生お勧めコメント

国内の各分野の専門家が集結して記事の制作にあたっており、商業誌としてはかなり信頼性の高い学術的根拠に基づいた情報を提供しています。また、好発犬種や病態などの背景が海外の状況と異なることを知ることもできます。

高木 哲先生お勧めコメント

手術を安全に実施するには教科書を読んだだけでは非常に難しいということは誰しもが感じることで、解剖や画像診断などさまざまな情報も加えて手術・治療計画を考える必要があります。本雑誌は豊富な写真やイラストにより手術を包括的に理解することに向いていると思います。

SURGEON BOOKS
動画でわかる縫合法ガイドブック

総監修:多川政弘
監修:浅野和之、泉澤康晴、兼島 孝、村中志朗、望月 学
A4判 64頁 DVD付き(約39分)

高木 哲先生お勧めコメント

縫合法はすべての基礎となりますが、イラストだけではなかなか習得しがたいものです。本書では動画によるガイドも含めて運針の基礎、すなわちスポーツで言う基礎体力トレーニングをしっかりと積むことができます。

小動物の整形外科・骨折治療
ハンドブック 第4版

著:Donald L. Piermattei, Gretchen L. Flo, Charles E. DeCamp
監訳:原 康/林 慶
B5判 並製 832頁

高木 哲先生お勧めコメント

軟部組織外科手術を中心に扱っている獣医師として、生理学や内科的な知識の重要性は言うまでもありませんが、骨関節の手術の知識や経験も少なからず必要となることがあります。本書は骨折治療の導入図書として、非常によくまとまっています。

高木 哲先生お勧めコメント

洋書ですが獣医腫瘍外科手術について詳しく書いてある(ところもあります)ので、論文検索をする前や手術前に一度チェックしておきたい本です。

高木 哲先生お勧めコメント

同じく洋書となりますが,論文や教科書などには書いていない細かな注意点が書いてある(ところもあります)ので、手術でつまずいたりしたときなど一度は目を通すようにしています。

高木 哲先生お勧めコメント

皮膚欠損などの再建術を実施する際に多角的なアプローチを検討することができる良書だと思います。

高木 哲先生お勧めコメント

電気メスの原理や使い方についてイラストなどを使って説明されており、わかりやすく楽しく理解できる本です。理論を正しく理解していると電気メスの使い方が飛躍的に上手になります。

高木 哲先生お勧めコメント

優れた業績を挙げながら評価されることなくこの世を去った天才たちの物語です。お話自体は救われないのですが、人生を大切なものに捧げること,自分が生涯で何を成し遂げたいかということに対して深く考えさせられる一冊です。

高木 哲先生お勧めコメント

漫画ですので信じられないようなスーパー外科医が出てくることもさることながら、外科手術や臨床を楽しむことや,指導医から学ぶ姿勢という大事な部分が描かれていて、臨床に携わるものとしての心の鍛錬を積むことができるので、修行中の先生には一度読んでほしい一冊です。