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オープンな気持ちで、自分から知識・知見を
求めていく姿勢が、能力を伸ばす。

#19 佐藤 雅彦

経歴
2005年3月 岩手大学共同獣医学部 卒業
2005年4月~2007年3月 東京都の一般病院にて勤務
2007年4月~2011年3月 東京大学大学院
2013年8月~2018年7月 コロラド州立大学大学院および小動物内科レジテントプログラムに従事
2018年7月 米国獣医内科学会 小動物内科専門医取得
2018年9月 獣医師・獣医学博士・米国獣医内科学専門医(小動物内科)東京大学附属動物医療センター 特任准教授

米国獣医内科専門医取得までの道のり

― 佐藤先生はなぜアメリカで専門医取得を目指されたのでしょうか。

佐藤先生:

私は学部生時代、臨床系の研究室に所属していたため、学生の頃から臨床に出たのですが、飼い主と話をするにあたって、自分の知識がまったく足りていないことに気付きました。「さすがに、このままでは臨床で使い物にならない…。本気で勉強をしないと…」と思うようになり、臨床系の教科書はもちろんのこと、生理学や解剖学、薬理学などのテキストを読みあさりました。そうすると、知識と臨床現場で求められることがリンクしはじめ、それらがとても面白く感じるようになり、一気に臨床にハマってしまったのです。

そして、「どうせやるなら、世界基準で勉強したい! 世界で通用する臨床獣医師になる」と考え、獣医学の歴史が古く、獣医療先進国であるアメリカでの専門医資格を取得したいと思いました。

― 資格の取得までの道のりは順調でしたか。

佐藤先生:

もちろん紆余曲折がありました。私は大学を卒業後、一般の動物病院で2年働き、それから大学院へと戻りました。というのも、臨床に身を置く獣医師として、必要となる経験や基本的な技術を一通り身につけておきたいと思ったからです。

大学院へ戻ることが決まり、いよいよ海外でのステップアップのために必要となる、実績づくりに入りました。当時取り組んでいたのはリンパ腫の研究で、さまざまな海外学会で発表を行うようにし、ありがたいことにたくさんの賞もいただき高い評価をいただけました。アメリカの大学へのvisitingも悪い感触もなく「これならアメリカのレジデントプログラムに選んでもらえる!」と思ったのですが……、残念ながら落選。まだまだ考えが甘かったですね(笑)。

大学院卒業後は、アメリカのフレッド・ハッチンソンがん研究センターで1年間ポスドクをすることにしました。ここは犬の骨髄移植の方法を開発しそれをヒトへと応用することでノーベル賞を受賞した科学者が在籍したところです。このセンターで、犬の骨髄移植のスキルを学ばせてもらいました。そして、再度、アメリカのレジデントプログラムに応募してみたのですが、それでもまだハードルが高く……。今となって考えれば当たり前と思えますが、どれほど研究実績を上げても、アメリカの専門医のもとでの臨床経験がないと評価されない現実に直面しました。

その頃、日本獣医学専門医奨学基金という機構ができ、運よく第一期生に選ばれることになりました。ここで認められれば、コロラド州立大学の一般内科でのレジデントになることができるチャンスをいただき、それを完遂することができました。

― アメリカにおける内科専門医の役割はどういったものか、教えてください。



佐藤先生:

内科には診断および治療が難しい症例が集まってきます。画像診断医、臨床病理医など各分野のプロフェッショナルが1つの症例に対してそれぞれが自分の分野で考えられる鑑別疾患をあげてきます。彼らと相談しながら議論の舵取りをし、その犬・猫の症状や病歴、各種検査内容などを総合して、最終的な判断をくだすのが内科専門医の役割です。

「私ひとりで治す」のではなく、「チームで症例を治す」というシステムなのです。もちろん、私たち内科専門医も画像や細胞診に関してある程度の知識を習得していますが、それらに関してはその分野の専門医にはかないません。内科専門医に求められるのは、診断や治療のスタンダードをすべて把握したうえで、エビデンスと経験に基づき、最終的な判断をする力……、このゴールまでのプロセスのトレーニングが、レジデントに課せられるわけです。

― 先生の話をうかがうと、アメリカのシステムはとても合理的な印象を受けます

佐藤先生:

アメリカの先生は、ずっと同じ大学に在籍することがありません。さまざまな大学でインターンやレジデントとして勉強し、また別の大学で勤務することもよくあります。しかも、どこの大学にも専門医が複数人おり、細かいところにまで相互のチェックが入ります。ですから、“自分だけのやり方=自己流”は通用しません。どこでも通用するスタンダードな方法論があり、どの施設でも一定のクオリティが保たれるようになっています。どこの施設でも高度に平準化された獣医療が提供されることは、飼い主や症例のみならず、臨床獣医師にとっても何より重要なことと思います。

日本から世界に発信する臨床研究

― 今後の日本の獣医療は、どのように発展していくとお考えですか。

佐藤先生:

システム構築の観点からすると、アメリカは日本よりずっと先行しており、日本のシステムは発展途上といえます。そこで、逆転の発想とはなりますが、先行するシステムのよいところを取りながら、日本およびアジアの専門医制度がよりよく整備されていければいいかなと思います。アジアの専門医制度が本格的に動き出し、各分野での専門医の数が増えれば、日本の獣医療でも“チーム獣医療”を実現することが可能かと思います。

また、日本で臨床研究がもっと盛んになればと考えています。獣医療における臨床研究は世界的にも乏しく、手つかずの分野が山のようにあります。私は一次診療と二次診療が共同で研究を進めれば、大きな成果が上がっていくと考えています。と言うのは、大学をはじめとした二次診療施設は特殊な症例が主体となり、一般的な症例は一次診療施設にたくさん集まっています。日本の開業医の先生方で、慢性腎臓病や糖尿病だけで二次診療に紹介してくるケースは少ないですもんね(笑)。一次と二次診療の垣根を越えて一緒に症例を集めれば、面白い臨床研究がたくさんできるはずです。そして、その臨床研究が活発になれば、日本から世界に向けた情報発信量も増えていくと思います。

臨床研究では「有意差がみつかった」「よい治療法をみつけた」ことももちろん重要ですが、「やってみたけど有意差が出なかった」「この治療法には意味がない」という研究も同じくらい重要だと思います。臨床現場では、よいのか悪いのか、よくわからないまま行っていることがたくさんあります。それを「やらなくて済む」ということがわかるだけでも、症例や飼い主だけでなく、臨床獣医師の負担も減るという、素晴らしい結果が導かれます。

― 若手の先生方、特に海外を意識している先生方にメッセージをお願いします。

佐藤先生:

自分が行っている診療が本当に正しいのかわからないと悩んでいるとき、そんなときこそ、論文や成書を読んだり、専門医や経験のある先生に意見を求めるなど、見聞を広める努力をしていただきたいです。「忙しいから、とりあえずこれをやっておけばよい」ではなく、オープンな気持ちで、自分から知識・知見を求めていく姿勢が、能力を伸ばすと思います。

あとは“飛び込む勇気”です。アメリカで専門医になる道は一つではありませんが、専門医のもとで臨床経験を積み、専門医の先生に推薦状を書いてもらうのが一番確実だとは思います。いずれにせよ、現状に疑問を感じているなら同じ場所にとどまらず、新しい環境に飛び込んでいく勇気は必要だと思います。

― 日本人であれば、おそらく誰もが直面するであろう英語の壁について、佐藤先生はどう克服されたのでしょうか。

佐藤先生:

英語はね、海外に行けばなんとかなりますよ。発音なんか気にせず、積極的にコミュニケーションをとることが一番の早道です。こちらが一所懸命であれば、向こうの方も発音などはまったく気にされていませんでした(笑)。

“佐藤 雅彦”を創る、書籍とは……

「明日の獣医療を創る」インタビューシリーズにて、佐藤 雅彦先生よりお勧めいただいた書籍をご紹介します。

佐藤 雅彦先生お勧めコメント

イラストも豊富で分かりやすく、特に若い獣医師や学生にとって各疾患に対する基礎的な考え方を学ぶ上で大変役立ちます。自分も学部学生の頃は大変お世話になりました。

VETERINARY BOARD 創刊号(2019年5月号)
胆囊疾患に対する選択肢を広げる

臨床の選択肢を広げるケーススタディ・マガジン 月刊誌A4判 104頁

佐藤 雅彦先生お勧めコメント

J-Vetの後継誌ということで期待している雑誌です。標準治療や最新の役立つ文献を紹介するなど、より知識を深めたい先生には大変役立つ内容になっていると思います。

VETERINARY ONCOLOGY 22号(2019年4月号)

VETERINARY ONCOLOGY 22号(2019年4月号)

佐藤 雅彦先生お勧めコメント

自分は一般内科が専門ですが、日本の腫瘍専門医が加わって書かれている本書籍は大変充実した内容になっています。腫瘍のアップデートをしたいときに自分も目を通します。

佐藤 雅彦先生お勧めコメント

疾患・テーマ別に各分野のエキスパートが執筆していて病態生理から実際の診断および治療までカバーされています。より深く勉強したい先生にお勧めのシリーズです。