Open Nav

緊張せずに平常心で臨み結果を出すためには、
たくさんのイメージトレーニングを行うことが大切

#20 戸次 辰郎

経歴
2001年3月 鹿児島大学卒業
2001年4月 ムコ動物病院勤務
2005年10月 ネオベッツVRセンター勤務

自分の技術が反映されるのが整形外科

― 整形外科医を志した理由を教えてください。

戸次先生:

当院に勤務する前は、整形外科を苦手に感じていました。若いころはしっかり教えてくれる専門の先生がまわりにいなかったため、見様見真似でトライするがなかなか結果がでない…ということの繰り返し、つまり「不成功体験」ばかりが積もりに積もってしまい、それが苦手意識へとつながっていました。

本気で整形外科に取り組み始めたのは7年くらい前、当院へと移って少し経ってからです。それまでは主に軟部外科を担当していましたが、当院で二次診療を手掛けるようになると、軟部外科を担当する先生が多くなり、なかなか手術を担当できませんでした。

そんなとき、当院代表の川田 睦先生から「整形外科をやってみないか?」と誘われました。大好きな手術ができるなら、と川田先生に教わりながら担当してみたところ、意外にも私の性に合っていることに気が付いたんです。きちんとやれば確実によい結果が出るし、そうでないときは自分に技術が足りないというのが整形外科の醍醐味です。答えがわかりやすいところが、私の性格とマッチしていました。

― 約7年という短期間で、整形外科のスペシャリストになられたことに驚きます。戸次先生がどのように技術を修得してきたのかに、とても興味があります。

戸次先生:

私はまだまだ若輩者ですので、いくつか心掛けていることがあります。その一つが、“術前計画を大切にする”ということです。

例えば、骨折の場合は「いかに患部を安定化させるか」「その安定化をどう維持するか」の2点が重要になります。しかし、いくら私が安定化の維持を心掛けるようインフォームドしたとしても、動物の性格や飼い主の許容度によっては、私には手が届かない不確定要素が出てきます。この不確定要素をどれだけ排除できるか?どのように排除するか?を考えることも、術前計画に含まれると思っています。

「きちんとした手術を行い、合併症を一つ一つ減らすためには何が必要か」を考え、そこから逆算していくと、「まずはしっかりとした診断をくだす必要がある」「そのためにはきれいなX線画像が必要」「そうなると、身体検査をきちんと行う必要がある」といったように、基礎の内容へと遡っていきます。これは、川田先生から指導された「きれいな手術をしなさい」にもつながるものであり、この仕事をやればやるほど痛感しています。

また、技術向上のために“経過の追求”も大切にしています。もちろん、結果にこだわったうえでの話にはなりますが、手術の際には「ムダを省いて、いかに所要時間を縮めるか」「出血量を極力減らす方法は」「アクシデントにどう対応できたか」「チームの皆がどのように連携できたか」といったように、一連の経過にも強くこだわっています。自己満足の世界になるかもしれませんが、それらを項目分けして採点しつつ、「ここの部分がイマイチだった。次は絶対に繰り返さない」と必ず反省点をあげるようにしています。

あとは結果を人のせいにしないことですね。治療がうまくいかなかったとき、私は全部自分のせいにします。自分の手術がヘタだったから、術前計画が悪かったから、術後の看護方法の伝え方が悪かったから、今回はうまくいかなかったんだなと考える。すると同じ失敗が起きにくくなり、次の患者さんを救えるようになります。

それと、“天狗にならない”ことも重要かと思います。私は症例発表に積極的に取り組みたいと思っており、学会はその絶好の機会だと感じています。自分より先輩の先生から、「ここをもっとこうした方がよい」とご指摘いただくと、「足りない部分がわかった。もっと勉強が必要だ」という向上心がわいてきます。そして、自分のやり方というエゴに凝り固まった、いわゆる天狗になることも防げるわけです。

手術がうまくなるには?

「手術がうまくなりたい」と考えている方にアドバイスするとしたら、どのような言葉を伝えますか?

戸次先生:

これだけ時代が進んでも、やはり、数をこなさないと手術はうまくなりません。地道に手を動かすことに尽きると思います。私は、手術室の予定を確保するために、朝の6時半から手術を行い、夕方には退勤するという、一般的な働き方とは“ズレた生活”を続けています。そのおかげで、昨年は約400件、小さなものもあわせると約500件の手術症例を担当でき、そこでの経験を自身の糧にすることができました。

― 整形外科医を志す若手の先生にアドバイスをお願いします。

戸次先生:

私の長所は忍耐力があることだと思っています。手術中、動揺するようなことが立て続けに起こることがありますよね。出血が酷いとか麻酔が安定しないとか。そういう悪い情報が入ってきても、動揺しないよう我慢して、つねに平常心の維持を心掛けます。これは、緊張する状況であっても、自分の力を最大限に発揮するために必要なことです。また、意識して嫌な習慣を自分に課すことで、この忍耐力をさらに鍛えています。例えば、私はランニングや筋トレが嫌いなのですが、無理して続けています。そうすると、手術中に何があっても、「大嫌いな筋トレであれだけの苦しみに耐えたのだから、これくらい何ともない」と思えるようになります。

それから、たくさんのイメージトレーニングを行うことも大切です。私はボクシング観戦が好きなのですが、世界チャンピオンである井上尚弥選手の動作にいつも感動させられます。井上選手の試合中の動きには、まったくムダがないですよね。天性の才能に加えて、井上選手はものすごく努力をされています。試合を想定した動きを何度も何度も繰り返し練習するから、パンチの角度、強さ、タイミング、足の向き、そのすべてがきれいに決まっていて、所作が非常に美しいものになっています。

私も手術前には何度も何度も頭の中で手技を確認し、イメージトレーニングを重ねるようにしています。本番でも緊張せずに平常心で臨み結果を出すためには、このイメージトレーニングが役立ち、これは手術のみならず診療全般で参考となる姿勢だと思います。

― 戸次先生には、非常にストイックな印象を受けますね。

戸次先生:

そうは言っても、自身を責めるだけではいつか壊れてしまいます。人間ですから。一方では「これができるんだから、やっぱりオレは天才やな」といったように、自分を褒めることで精神のバランスをとったりしています(笑)。

“戸次 辰郎”を創る、書籍とは……

「明日の獣医療を創る」インタビューシリーズにて、戸次 辰郎先生よりお勧めいただいた書籍をご紹介します。

AO法による犬と猫の骨折治療

著者:Ann L Johnson,John EF Houlton,Rico Vannini
監訳:泉澤康晴
A4判 442頁 オールカラー 動画付き

戸次先生お勧めコメント

AOによる骨折治療の原理原則が記載され、部位別にいかに合併症を少なく最短距離でゴールに到達できるかが記載されています。

プログレス 犬の前十字靭帯学
─治療を極めるための40章─

編者:Peter Muir  監訳:泉澤康晴
B5判 上製 310頁 オールカラー

戸次先生お勧めコメント

前十字靭帯疾患に関する文献が基礎から応用までまとめられており、インフォームドに使いやすい構成です。

SURGEON BOOKS
整形外科疾患に対する系統的検査STEPS
犬の跛行診断

著:林 慶・本阿彌宗紀
A4判 並製 192頁 動画付き

戸次先生お勧めコメント

その名の通り診断までのストーリーが漏れなく、丁寧に描かれています。診断に苦慮した時には是非最初から読み直すべき本だと思います。

戸次先生お勧めコメント

疾患別にまとめられており、第一線で活躍している先生方が自らの症例で手術のコツなどを細かく記載されていることが多く、教科書に書いていないことも知ることができる雑誌です。