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10年後、15年後の猫医学はもっと細かく、
詳しい知見が重ねられている。
その口火を切る本になってほしい。

#Extra2 服部 幸

北里大学獣医学部卒業後、2年半の動物病院勤務を経て、
2005年よりSyuSyu CAT Clinic の院長を務める。
Alamo Feline Health Centerにて研修後、
2012年に東京猫医療センターを開院。
日本猫医学会JSFM実行委員理事。

はわからないことだらけ

―服部先生が猫診療を志した理由を教えてください

服部先生:

猫科の動物の研究者になりたかったことが始まりです。野生の猫科、ライオンの研究者とか…大学に進学して、小動物臨床に進む際にも“猫だけを診ることができないかな”とは考えていました。でもまあ、周りは私にアドバイスしますよね、「猫だけで経営的にやっていけるのかと」(笑)。それでも楽観的に“なんとかなるだろう”とは思っていました。
根本として、私は犬を飼ったことがないため、犬のことがよくわからない、ということがあると思います。

―猫の診療に特化するうえで、知識的・技術的な不安はありませんでしたか?

服部先生:

当院を開業する前に、アメリカのテキサス州にある猫専門病院 Alamo Feline Health Centerの研修プログラムに参加しました。
そこでは、The Feline Patientの著者であるGary D. Norsworthy先生のもとで研修を行ったのですが、そこでの経験が自信につながったと考えています。

Gary先生は私より常に“2歩先”にいました。私の知らない技術や知識を、たくさんお持ちで、私が「猫の診察とはこうだろう」と思う延長線上にGary先生がいらっしゃいました。つまり、このまま自分がやっていることを積み重ねていけば、研鑽していけばいいんだと思い、それが励みになりました。そのおかげもあり、当院を開業するときには不安はほとんどありませんでした。

―Gary先生のもとで研修をしようと考えたキッカケはなんですか?

服部先生:

13年前、日本にThe 5 Minute Veterinary Consult : Canine and Felineの著者であるLarry P. Tilley先生がご講演でいらっしゃった際に、アメリカで猫を専門に診ている先生を紹介してほしいという話をさせていただいたところ、Gary先生を紹介していただきました。Larry先生にGary先生の連絡先を教えていただき、私からGary先生に直接研修をさせていただきたいとご連絡をさせていただいたことがキッカケです。Gary先生は私のことを何も知らないのに、ご快諾していただき、研修をさせてくれました。なので、今度は外国の先生から「当院に研修に来たい」という申し出があった際には、できる限り対応したいと考えています。

―猫の診療をするうえで、大変なことはなんですか?

服部先生:

猫の診察はわからないことだらけです。毎日が試行錯誤の連続です。
猫専門病院という立ち位置もあって、他の動物病院を転々としても治らないような難しい症例が多く来院してきますし、この病気かな?と調べても教科書に載っていなかったり、数例しか論文報告がないような病気に多く接しているのが現状です。

また、犬の診療に比べて圧倒的に情報が不足していると感じる一方で、あくまでも個人的な考えですが、猫の飼い主は、飼い猫を家族以上の存在、たとえば“宝物”として捉えているのかな、と感じる場面が多々あります。これはどういうことかというと、宝物であるからこそ、飼い猫を傷つけたくない・(診察による)ストレスを感じさせたくない、といった傾向の考え方をするのかな、ということです。猫の飼い主のそのような飼い猫に対する距離感を理解して、診察していくことがポイントだと思っています。


猫、犬まったく別の生き物

―服部先生にご執筆いただいた弊社月刊誌:asの連載「猫の看護に強くなる!」が本書「猫を極める本」として発刊されます。連載および本書は、今お話しいただいたように服部先生の研鑽やキャリアが十二分に反映された内容であると推察いたします。それぞれについて、執筆のコンセプトを教えてください。

服部先生:

「猫は犬が小さくなった生き物」ではありません。猫は猫、犬は犬でまったく別の生き物で、別の生き物を扱っているという感覚を身に付けてほしい、ということがコンセプトです。たとえば、犬と猫よりも、ヒトとチンパンジーのほうが遺伝子的に近いことを考えると、猫は犬とはまったく違う動物だと感じていただけるはずです。

そのうえで、獣医師よりもより多くの時間を猫と接している動物看護師には、猫の生態・保定の仕方・薬の飲ませ方など、犬とは違うケアを知ってもらうことが有意義だと思い、asの連載を執筆しました。動物看護師が猫の扱いが上手くなり、猫に対して優しく接してくれたら、ボトムアップ的な効果で病院全体もうまく回っていくのではないかな、と考えています。

そして本書では幼猫、老猫のケアや予防医療についての情報を加えながら、“猫種”を切り口にした情報も追加しています。これは、犬種別の好発疾患を常に考えながら診察を行う獣医師は多いと思うのですが、猫種別の好発疾患を常に考えて診察を行っている獣医師は少ないのではないか、という観点からです。

ミニチュア・ダックスフンドなら椎間板ヘルニア、キャバリア・キング・チャールズ・スパニエルなら僧房弁閉鎖不全症、チワワなら水頭症が多いと考える獣医師は多いと思いますが、メインクーン、ペルシャに多い疾患を知っている獣医師は少ないと思います。この猫種に特異的な疾患は何か、ということがあまりわかっていないのが現状です。ですので、日本中の獣医師が猫種を理解して常に猫種の特異性などを考えながら診察すれば、わからないことが徐々にわかってくるということを期待しています。

―これから本書を手に取ろうと考えている読者にメッセージをお願いいたします。

服部先生:

本書は「猫を極める本」というタイトルこそついていますが、本書を読んいただいても、“猫を極める”ことはできないと思うんです。私自身も極めてはいないので(笑)。ただ、本書をきっかけに猫のことをもっと知っていただきたいと考えています。「猫はこわいし、よくわからない」と感じている獣医師・動物看護師が、「猫って面白くて魅力的な動物だな」と感じるきっかけにしていただきたいです。“極める本”ではなく、“極めようと思う前に読む本”ですね。獣医師・動物看護師みんなが“猫を極める”ということを目標に向かうきっかけを提供できたらいいなと考えています。

重ねてとはなりますが、猫と犬の違いを獣医師・動物看護師が理解して、猫の診察をしたら、いい情報が日本中から集まってきます。そして10年後、15年後の猫の医学はもっと細かく、詳しい知見が重ねられていくと考えています。その口火を切る本になってほしいです。


著:服部 幸

(東京猫医療センター 院長)

【仕様】A4判/並製/216頁/オールカラー

  • ● 「動物看護専門誌as」2016年1月号‐2017年12月号掲載の好評連載「目指せ!猫のスペシャリスト 猫の看護に強くなる!」を元に、最新情報を盛り込み、大幅に加筆修正して仕上げた充実の1冊!
  • ● 猫にやさしい動物医療スタッフを目指すためのJSFM(ねこ医学会)Catvocate認定プログラム推薦テキスト!
  • ● 「猫は病院が大嫌い」は変えられる!すべての獣医師・動物看護師に手にとってほしい目からウロコの必読書!