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今いる環境で最善を尽くすことで、
良い出会いがおのずと増え、先がみえてくる

#18髙野 裕史

経歴
2008年 麻布大学獣医学部獣医学科卒業
2012年 麻布大学大学院獣医学研究科獣医学専攻博士課程修了、博士(獣医学)取得
2011年~2013年 日本学術振興会 特別研究員
2012年~2014年 酪農学園大学獣医学群獣医学類伴侶動物医療分野 非常勤講師
2014年~現在 JASMINEどうぶつ循環器病センター 勤務医
2015年~2017年 東京大学大学院農学生命科学研究科附属動物医療センター 特任研究員/特任助教
2017年~現在 アジア獣医内科学会専門医(循環器)

日本の獣医循環器診療の現状

― 循環器科、特に心臓外科において日本は世界の最先端を走っているという印象があります。日本における循環器科の二次診療の現状を教えてください。

髙野先生:

心臓外科、特に僧帽弁閉鎖不全症に対する外科治療に関しては、多くの先生方の多大な努力と長い試行錯誤を経たうえで、茶屋ヶ坂動物病院の金本 勇先生や私の勤務するJASMINEどうぶつ循環器病センターの上地正実先生らによって、動物病院でルーチンに行っていける手術として形になったものと理解しています。この分野において一歩先んじている日本、そして施設で、チームの一員として働けていることを非常に幸運に思っています。

当センターでの心臓外科の多くは僧帽弁の症例となり、現在のところ、その成功率(退院率)は93~94%程度となります。ヒトでの死亡率と比べるとまだリスクが高いといえますが、チーム全員で経験とデータを積み上げながら、日々、手術や術後管理を改善していけるように切磋琢磨しています。

― 術後管理もかなり重要と推察しますが

髙野先生:

そうですね、術後の経過は結果をかなり左右しますね。“この傾向がでてくるとかなりヤバい”とか。ただ当院は症例に恵まれているため、術後傾向をパターン化して対応策を練る、ということができるようになってきました。頭の使い方では色々な観点でデータをまとめることが出来るので、臨床研究を積み重ねていける現状にもあると思います。



― シビアな現場に身を置かれていますが、そもそも循環器科を志したのはどのような理由からでしょうか。

髙野先生:

大学時代に研究室を選ぶ際、「せっかくなら一番忙しい研究室に入ろう」と外科学研究室を選びました。そして、心臓病や腎臓病を担当する外科学第一研究室に決めたのは、心臓など体の内側へとアプローチする領域は理路整然として、そのメカニズムを学んでいくことが楽しそうに思えたからです。

その後、当時の麻布大学の教授であった若尾義人先生や博士課程のメンターにもなっていただいた藤井洋子先生にご指導いただくうちに、自然と循環器科への興味が増していき、教育熱心な2人のようになりたい、と純粋に思うようになりました。この麻布大学で学んだ8年間が、今の自分をつくっていると感じます。

しかし、2人のように大学病院に在籍しながら、将来は臨床・研究・教育の3つを軸に、循環器科へとかかわっていきたいと思うようになったものの、自分のやりたいことや専門領域をいかしつつ大学病院に残ることはものすごく難しく、その道に進める人間は限られているように感じました。卒業後は、自身の夢を実現できる場に辿り着けるかと、不安な日々もありました(今も不安がまったくないわけではないですが……)。



臨床・教育・研究の一翼を担う

― 手探りで進む時期があったということですね。

髙野先生:

“与えられた環境でできることや役に立てることを常に考えていくことで、よい出会いがおのずと増え、先がみえてくる”と、今は考えることができています。また、実際にそうすることで、道が開けてきた気がしています。今の勤務先は、自身の夢を叶えることができる場所ではないかと思えています。

ここは民間の二次診療施設ですが、循環器専門病院として診療に申し分のない設備が整っているうえ、豊富なデータが集まることで臨床研究も行っていくことができます。セミナー講師や麻布大学との提携など教育に関わる機会も多く、海外とのつながりも増え、たくさんの貴重な経験ができています。ここの立ち上げに呼んでいただけた私は、本当に運がよかったと思っています。

― 今後、循環器科はどのように発展していくとお考えですか。

髙野先生:

専門医療を行う二次診療施設は、ある程度集約されていくのではないでしょうか。というのも、循環器科は高度な治療を行うため、どうしても特殊で高価な機材を使うことになり、かなりの設備投資が必要になります。また、高度医療になるほどチーム医療が不可欠になるため、診療・手術・術後管理を適切にできる、経験豊かなスタッフが一定数必要になります。となると、今後はどんどん施設を増やせばいい、という方向にはなりません。また、人的および設備的に充実した施設は、臨床研究や教育など、現在大学がメーンで行なっている使命の一翼を担っていけるのではと思っています。

また、海外との連携がもっと増えてくると考えています。海外での学会発表や講演、出張の手術、当院を受診する海外からの患者、見学にこられる海外の獣医師など、ここ5年で海外との接点がとても増えています。2020年からはアジア獣医内科学専門医の研修医制度もスタートし、光栄にもその運営に携わっていける立場になることができました。この制度がうまく機能すれば、日本にいながら国際的な専門医の資格が取得できるようになり、またアジアの学生や研修医が、日本の大学や二次診療施設に来て必要な単位を取得するという、国際交流も活発になります。時間はかかるかもしれませんが、とてもやりがいのある仕事になると思っており、今から楽しみです。海外で通用する専門医の資格を日本で取得できるようになることで、欧米の専門医とも対等にディスカッションできるようになり、新しい見識をどんどん増やすことができます。日本の若手の先生にとっても、将来の選択肢の幅が広がっていくのではないかと考えています。

― 最後に、若手の先生方にメッセージをお願いいたします。

髙野先生:

今は“学ぶツール”が非常に増えています。学会も増えていますし、二次診療施設が増加したおかげで、大学病院に行かなくても優秀な先生のもとで学べるし、インターネットから得られる知識も膨大です。自身でもやる気のあるメンバーで勉強会を立ち上げ、皆で情報と経験を共有し、レベルアップを図ろうと思っています。このような活動も若手の先生の卒後教育の一環になれるのではないかと考えています。数あるツールから自身に必要なものを選択するという難しさもありますが、いろいろなツールを活用して、是非、興味のある分野の知識を深めてください。

実は私もまだまだ勉強不足で、いまだに毎日「え?こんなことあるの?」の連続です。だから面白い。私は、この「面白い」が獣医師の仕事を続けていくための原動力だと思っています。みなさんもぜひ、「いつもと違う」を見つけたら、「面白い」と感じるようになってください。

あとは、インフォームド・コンセントは獣医師にとって重要だと感じています。当院では、初診に3時間ほど時間を取りますが、そのうち1時間弱は飼い主への説明や対話にあてています。というのも、循環器科で行う手術やカテーテル治療は、大動脈や肺動脈など大血管に触れることが多く、比較的リスクの高い施術となるからです。初診から手術までの時間は限られていることも多く、飼い主と時間をかけて信頼関係を築くことが難しいため、私は初診時には不安を与えないように蓄積したデータや手術のメリット・デメリット・コストなどをしっかりとお伝えすることを心掛けています。できるだけ、飼い主の考えや気持ちに寄り添い、一緒に治療方針を考えていこうというスタンスでいます。 このスタンスは、ある程度の診療時間を要するため、二次診療施設だからこそできるのかもしれません。しかし、飼い主がこの子のために“一番よいと思う道”を選んでもらうために尽力する、そこに獣医師の基本があると私は思っています。

“髙野 裕史”を創る、書籍とは……

「明日の獣医療を創る」インタビューシリーズにて、髙野 裕史先生よりお勧めいただいた書籍をご紹介します。

髙野 裕史先生お勧めコメント

私が学部生のころに連載が行われており、毎回必ず読ませていただいていました。連載を読みながら研究室の同級生と一緒に心エコーの練習を行っていたことを思い出します。

サンダースVC Vol.6-3
犬と猫の心臓病学-臨床研究の最前線-

著:Jonathan A.Abbott
監訳:金山喜一、鯉江 洋
B5版 上製本 196頁

髙野 裕史先生お勧めコメント

原著を読むことの方が多いですが、このシリーズは最新のレビューがテーマごとにまとまっており、とても重宝しています。

Small Animal Internal Medicine【第4版】
─日本語版─上下巻セット

総監修:Richard W. Nelson,C. Guillermo Couto
監訳:長谷川篤彦、辻本 元
【上巻】A4変形判 上製本 第1章~第48章 824頁
【下巻】A4変形判 上製本 第49章~第104章 856頁

髙野 裕史先生お勧めコメント

内科診療において基本となる教科書といえるでしょう。学部生のときから今に至るまで、よく読ませていただいています。

犬の動脈管開存症─診断と治療─

著:若尾義人、藤井洋子、青木卓磨、今村伸一郎
A4判 並製本 100頁

髙野 裕史先生お勧めコメント

私の恩師である先生方が書き上げた書籍です。大学院時代に作成のお手伝いもさせてもらいました。もちろんですが、これ以上に犬の動脈管開存症について詳しく書いてある書籍は見たことがありません(笑)。外科を行う上で役立つイラストも豊富です。