運動器超音波検査の普及は、
獣医整形外科分野全体のレベルアップにつながる。
それを期待したい。
#Extra 本阿彌 宗紀
(ほんなみ むねき)
東京大学大学院農学生命科学研究科
附属動物医療センター 整形外科
2008年
麻布大学獣医学部獣医学科卒業
外科学第二研究室
2012年
東京大学大学院農学生命科学研究科
獣医学専攻博士課程修了
博士号(獣医学)取得
東京大学大学院工学系研究科
バイオエンジニアリング専攻 特任研究員
2013年
東京大学大学院農学生命科学研究科
附属動物医療センター 特任研究員
2014年
東京大学大学院農学生命科学研究科
附属動物医療センター 特任助教
獣医療では日本初のテーマとなる書籍発刊!
発刊を記念して、著者である本阿彌 宗紀先生に緊急インタビュー!
本書発刊の企画意図や運動器超音波検査の有用性、製作コンセプトを伺いました!
犬の運動器超音波検査 エコーで診るためのFirst step!
ヒト医学で昨今急速に発展する運動器超音波検査。
この有用性を獣医療にもたらすため、臨床で即使えるまでに磨き上げた、待望の、そして日本初の書籍がついに発刊!
仕様:A4判/並製/192頁/DVD付
触診の限界、単純X線の限界
―「運動器を超音波で診る」とのテーマの書籍は、獣医療(小動物医療)では日本初と言えます。そして本書企画は本阿彌先生の発案と伺っておりますが、その切掛けはなんでしょうか?
本阿彌先生:
実はこの運動器超音波検査は、ヒト医療では30年以上前から存在し、最近になって急速に発展してきた分野です。現在では多くの整形外科医が診察室に超音波検査機器を置き、触診と超音波検査をセットにして診療を行っていると聞きます。
私がこの「運動器超音波検査」という言葉を知ったのは、2006年のヒト医学の学会に参加した時なので、まだ大学院生だった頃です。触診や単純X線ではわからない、運動器の詳細な動きを観察できることを知り、非常に衝撃を受けました。そして、運動器超音波検査に関するヒト医療の様々なセミナーや学会に参加させていただくうちに、「この技術は獣医療にこそ必要である」と思うようになったのが発端です。
―なぜ、獣医療にこそ運動器超音波検査が必要と思われたのでしょうか?
本阿彌先生:
整形外科疾患とは骨の異常だけではなく、「運動器」つまり関節や
筋、腱、靭帯、神経の異常だからです。しかし、現在多くの獣医師が利用できる運動器の検査と言えば、触診と単純X線検査くらいでしょう。
獣医療・ヒト医療に関係なく、触診は整形外科疾患の診断に非常に重要であることは言うまでもありません。多くの獣医師はある一定レベルの触診技術を身につけていますが、触診だけでほとんどの疾患を診断できるという獣医師はほんのわずかであり、言わば“匠の技”です。したがって、ほとんどの獣医師は触診と単純X線検査の所見を総合して診断していきます。
ここで重要なのが、単純X線検査で得られるのは主に骨の情報のみであるということです。つまり、骨以外のほとんどの運動器の情報は触診、いわゆる“匠の技”に委ねられているのです。もちろん、CT・MRI検査を行えば多くの情報が得られますが、獣医療では全身麻酔が必要、予約性、費用が高額などの問題が付いて回ります。関節内の異常であれば関節鏡検査がGold standardですが、ここまでくるとほぼ手術です。
その点、超音波検査はと言うと、無麻酔・無侵襲で検査が可能であり、ほとんど全ての運動器を画像として評価することができます。そして、最大のメリットは運動器がどのように動いているかを詳細に観察できることです。さらに、触診とセットにして検査することで、「感触」と「映像」を結びつけながら評価できるようになるのです。むしろなぜこれまで運動器超音波検査が獣医療で行われてこなかったのかが不思議ですね。
重要なのはテクニックではなく解剖学!
―運動器超音波検査には、たくさんのメリットがあることがわかりました。では、本書はどのような点をコンセプトとして作成されたのでしょうか?
本阿彌先生:
超音波検査機器さえあれば、誰でも簡単に運動器を描出することができます。
テクニックは必要ありません。必要なのは解剖学の知識です。
運動器超音波検査を行う上で最大の壁となるのは、得られた画像が“何を映し出しているのか”を読み取ることです。そのためには、深い解剖の知識が必要不可欠です。解剖学を学ぶには、ひたすら教科書を読むしかありません。しかし、解剖学の教科書に掲載されているイラストは、当たり前ですが、全て平面のイラストです。一方、運動器超音波検査の画像は全て断層像です。プローブを当てれば画像が得られるので、当て方は無限です。つまり、解剖学の教科書の知識だけでは不十分で、頭の中でこれらの平面のイラストをあらゆる角度から断層像に再構築できるようにトレーニングすることが必要なのです。
私はこのトレーニングを10年以上続けています(笑)。
そこで本書では、ある種の修行とも言えるトレーニングをせずとも、各部位における運動器の基本的な画像が理解できることをコンセプトに作成しました。各項目の冒頭では基本的な解剖学の知識を、平面のイラストとしておさらいし(Fig. 1)、プローブの当て方と超音波画像およびその解説をセットにして掲載しています。そして、最も力を入れたのが、超音波画像と全く同じ解剖断面を作成し、その写真を超音波画像と一緒に掲載していることです(Fig. 2,3)。この解剖断面の写真を見れば、修行なしで超音波画像を一発で理解できます。ほとんどの先生が見たことのない写真ばかりだと思いますので、この写真だけでも一見の価値ありです。
本書では、先生がこの分野で多大な教えを受けたという皆川洋至先生、松崎正史氏にもコラムを執筆いただいていますね。
本阿彌先生:
秋田県の城東整形外科診療部長であり、国内外から講演依頼が絶
えない皆川洋至先生。そして、豊富な超音波診断装置の知識で皆川先生をサポートされている、ソニックジャパン代表取締役の松崎正史氏には、日頃からさまざまなご指導をいただいております。お二人はヒト医療の運動器超音波検査を普及・発展させた立役者であり、本書執筆に当たっても大きなお力添えを賜りました。
本書では、皆川先生にはヒトと動物の違いやヒトのエコー検査の最先端について、松崎氏には検査機器のメカニズムや原理、アーチファクトについて非常に面白くわかりやすく執筆いただいています(fig. 4,5)。
―本書には理解を深めるための動画がついていますが、その活用方法を教えてください。
本阿彌先生:
運動器超音波検査は運動器が動いているところを観察してこそ意味があるのですが、書籍ではどうしても静止画のみになってしまいます。静止画を理解できなければ、動画は理解できないので、まずはしっかりと本書を眺めてもらいたいのですが、実際の検査では運動器の動きを見ることに多くの時間を割いています。動画では、プローブの持ち方から始まり、どこにどのようにプローブを当て、どのように関節を動かすのか、そのとき超音波画像ではどう見えるのかを紹介しています(fig. 6,7)。本書を片手に動画をご覧いただくと、理解がさらに深まると思います。
触診と 単純X線検査の間を埋めるもの
―最後に、本書を手に取ろうという先生方にメッセージをお願いしま す。
本阿彌先生:
運動器の解剖学の知識は、運動器超音波検査のためだけに必
要なのではありません。
私自身が体感したことですが、解剖学の知識が深まるにつれて、触診で得られる情報がさらに増え、手術のテクニックも一段上に上がれた気がします。つまり、運動器超音波検査が普及すれば、獣医整形外科分野全体のレベルアップにつながるのではと期待しています。
また、本書はあくまでも運動器超音波検査を知るためのFirst stepに過ぎません。獣医療において運動器超音波検査が触診と単純X線検査の間を埋めるものとして確立するには、本書を手に取っていただいた先生方のご協力が不可欠です。今後は講演やハンズオンセミナーの開催に加え、研究会などの発足も検討していますので、是非ご協力ください。