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「目標像に向かってどう努力するか」
という考えは、絶対に必要

#11 藤原 亜紀

経歴
2009年 日本獣医生命科学大学卒業
2013年 東京大学大学院農学生命科学研究科 博士課程修了(獣医内科学教室) 、博士(獣医学)取得
2013年 日本獣医生命科学大学臨床獣医学部門治療学分野I(獣医放射線学教室) 助教
2016年 日本獣医生命科学大学臨床獣医学部門治療学分野I(獣医放射線学教室) 講師

研究と臨床を両立させ、最終的に症例に還元したい

― 藤原先生の講演を拝聴しますと、大学での研究はもちろんですが、臨床にも非常に力をいれていらっしゃる印象を受けます。
どのような想いからこの姿勢を貫き続けているのでしょうか?

藤原先生:私は学生時代から2匹の猫を飼っています。辛いときにもずっと寄り添ってくれた愛猫で、「このコたちを自分で診てあげられないのは絶対に嫌だ」と思っていることは、臨床の現場に立ち続けている大きな理由です。

また、大学院での諸先輩方との出会いも影響しています。当時の指導医でいらっしゃる辻本 元先生も大野耕一先生も、多くの論文を執筆しているのに、臨床の第一線でご活躍され続けています。また先輩や同級生もとても優秀でエネルギッシュでしたし、臨床に研究にと努力を惜しまない先生ばかりで、今も刺激をいただいています。私は本当に人脈・環境に恵まれていたと思います。

このような尊敬する先生方との出会いから、私も研究と臨床を両立させ、最終的には自身の研究成果を症例へと還元したいという想いが強くなりました。診療だけでなく学会発表や論文執筆によって患者さんや紹介病院さんへ還元することは、大学に籍を置く臨床教員としての責務だと思っています。臨床と研究の両立は難しいですが、自分も猫の一飼い主としての気持ちを忘れないように、バランスを大事にしたいです。

― ご専門とされているX線検査による画像診断、また呼吸器診療の研究・臨床は、どのようにご研鑽されてきたのでしょうか?

藤原先生:まずX線検査についてです。大学の研究室で藤田道郎先生から厳しい指導(笑)を受けたので、読影には少しだけ自信がありました。
でも、「ここに異変がある」といった画像所見を述べる程度のレベルでしたので、すぐに診療へと活かせたわけではありません。
「ある分野のエキスパートになるためには、ジェネラリストでなければならない」という教えの下、大学院時代は研修医として内科系の色々な科目を診て、臨床のゼミには積極的に参加し、多くの内科疾患の知識を勉強しました。すると、次第にX線画像と臨床徴候や他の検査結果が結びつきはじめ、「これは○○だ!」と疾患がわかるようになってきました。これがX線検査の面白さを感じた瞬間で、画像診断を行う醍醐味だと思っています。

呼吸器診療については、大学院を経て、教員として戻ってきた日獣大が出発点となります。 正直、初めは苦手意識があった分野でしたが、スペシャリストである藤田先生の診療を2年ほど張り付くように(笑)みているうちに、藤田先生と診断が一致するようになってきたことに面白さを感じ、さらにのめり込んでいったという経緯です。

“とりあえずCT・MRI”をやめるには?

― 藤原先生が呼吸器疾患に苦手意識をもっていたとは意外です。

藤原先生:やはり、呼吸器疾患は診断までのステップがとても難しいと思います。また不定愁訴も多く、呼吸器のどの部位に問題があるかを調べている間に、症例が亡くなってしまうこともあります。そのような理由から、苦手意識をもっている先生が多いのではないでしょうか。

昨年、あるセミナーのために、私がこれまで診てきた呼吸器の疾患について、X線検査による診断とCT検査による診断がどのくらい一致するかを調べてみました。その結果、X線検査に臨床徴候や治療反応などを併せた総合診断は、その9割がCT検査による診断と一致していることがわかりました。つまり、病気への知識をきちんと身につけてX線画像を十分に読影できれば、CT検査を行わなくとも呼吸器疾患への対応が十分可能になるということです。無麻酔CTならまだしも、CT検査のために呼吸が悪いコに麻酔をかけたくないですよね。お金の制約でCT検査ができない場合もあります。 また、呼吸器疾患には画像所見に大きな異常を認めずに、診断のために内視鏡検査や透視X線検査が必要となる場合もあります。「CT撮影ができないからわからない」ではなく、獣医師側の知識や技術をレベルアップすることで、ご家族により多くの指針を示してあげることもできます。「なるべく動物にもご家族にも負担をかけない診断・治療」が私のモットーとなっていますね。

― 若手の先生にアドバイスをお願いします

藤原先生:私はまだ自称若手なので、偉そうなことを言える立場ではないのですが…、どのような分野でも「目標像に向かってどう努力するか」という考えは、絶対に必要なのだと思います。そうすれば、そこに到達するための過程で技術も磨けます。私は「臨床と研究の両方できる職業」を目指し、現在の「侵襲の少ない検査を用いた呼吸器疾患や画像診断」に出会いました。目標を高く設定することで、自分を応援してくれる人や刺激的な環境と出会えるはずです。

あとは、個人的には臨床の研究者を目指す女性が増えてくれると嬉しいです。獣医師という職業は体力が必要なため大変な側面が多いですが、やりがいは十二分にある仕事です。

― ちなみに、藤原先生のロールモデルはどなたになりますか?

藤原先生:女性像としては、鷲巣月美先生です。臨床家であり研究者であり、そして母でもあった。2年間でしたが、大学でご一緒させていただき可愛がってもらいました。お亡くなりになったのは残念ですが、今もとても尊敬しています。

研究者像であれば、長谷川大輔先生ですね。いつも研究活動に積極的で、コンスタントに論文を出して学会でも発表されています。私も必ず学会発表は毎年行うように心掛けています。「目指せ! 女性版・長谷川大輔」です(笑)。

“藤原 亜紀”を創る、書籍とは……

「明日の獣医療を創る」インタビューシリーズにて、藤原 亜紀先生よりお勧めいただいた書籍をご紹介します。

スモールアニマル・インターナルメディスン【第4版】
-日本語版-上下巻セット

総監修:Richard W. Nelson,C. Guillermo Couto
監訳:長谷川篤彦(東京大学名誉教授)
辻本 元(東京大学大学院 農学生命科学研究科 教授)
【上巻】A4変形判 上製本 第1章~第48章 824頁
【下巻】A4変形判 上製本 第49章~第104章 856頁

藤原先生お勧めコメント

私が内科疾患の勉強を始めた原点の教科書です。各疾患の詳細は少ないけれど、全体的に網羅しているため広く勉強する際にとても役立ちます。学生時代には気付きませんでしたが、辻本先生が監訳されています。

犬と猫の呼吸器疾患

著:Lesley G. King
監訳:多川正弘、局 博一
A4判 上製本 816頁

藤原先生お勧めコメント

数少ない獣医療における呼吸器疾患の教科書です。比較的古いですが多くの疾患を網羅しており、呼吸器を勉強するには必須になると思います。

犬と猫のX線検査ガイド ─撮影・読影・鑑別診断のための手引き─

著:M.C. Muhlbauer, S.K. Kneller
監訳:多川政弘
A4判 並製本 528頁

藤原先生お勧めコメント

元となった本は私が学生時代にX線の勉強に用いたもので、X線をきちんと勉強したい先生にはこちらの本を勧めています。X線解剖やイラストがとても多く、理解しやすい作りです。翻訳には私も参加させていただいております。

写真とイラストでみる犬の臨床解剖

著:Julio Gil Garcia, Miguel Gimeno Dominguez,Jesus Laborda Val,Javier Nuviala
監訳:武藤顕一郎
A4判 並製本 572頁

図解 猫の解剖アトラス

著:Lola Hudson, William Hamilton
監訳:武藤顕一郎
A4判 並製本 252頁

藤原先生お勧めコメント

画像診断を行うにあたって、解剖の教科書は必須です。今でも画像検査で部位がよくわからないときには教科書を開いて、画像と照らし合わせています。

Atlas of Small Animal CT and MRI

著:Erik Wisner, Allison Zwingenberger

藤原先生お勧めコメント

数少ないCTとMRIの参考書です。症例の画像が多く、照らし合わせにとても役立ちます。

Small Animal Clinical Oncology

著:Stephen J. Withrow, Rodney Page, David M. Vail

藤原先生お勧めコメント

こちらは比較的以前から出版されていますが、腫瘍疾患を広くまとめた教科書です。
多くの引用論文も紹介されているため、詳細の検索がしやすくなっています。

SA Medicine BOOKS 犬と猫の治療ガイド2015 私はこうしている

編集:辻本 元,小山秀一,大草 潔,兼島 孝
A4判 上製本 1160頁

藤原先生お勧めコメント

各内科分野のスペシャリストによって多くの疾患がまとめられている本は、他にはないと思います。専門外分野の疾患に出会ったときには、まず参考にしています。私も一部執筆させていただきました。

ブルース・フォーグル博士のわかりやすい「猫学」

著:Bruce Fogle
監訳:浅利昌男
B5判・上製本 292頁

藤原先生お勧めコメント

学生のときに猫の飼い主として興味をもって買いました。猫を愛する者としては、必須の知識かと思います。

SA Medicine 114号( 2018年4月号)
一目でわかる症候シリーズVol.20 発熱①

小動物内科専門誌 隔月刊(偶数月発刊)
A4判 96頁

藤原先生お勧めコメント

内科疾患に関して多くの最新の深い知識が得られます。特に、現在連載している症候シリーズは、イラストが多くとてもわかりやすい構成になっています。私も購読しています。

CLINIC NOTE 154号( 2018年5月号)救急疾患 EMERGENCY

獣医学の「標準診療」を学ぶ総合情報誌
月刊 A4判 136頁

藤原先生お勧めコメント

若手の先生に是非読んでいただきたいです。基礎的な内容を広くカバーしています。中堅の先生方でも、苦手分野については専門誌ではなくこちらで基礎的な勉強ができます。